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私の住んでいる街は駅からでもタクシーを捕まえるのが難しい。今日も10分くらい寒さに包まれて光る画面と割増の緑色の文字を眺め続けた。私が生まれる前、バブルくらいのはるか昔にはメトロセブンなる環七に地下鉄を通そうという計画があったらしい。寂れた商店街のシャッターにそう描かれていたけど大人は誰もそれについて教えてはくれなかった。
いつもタクシーに乗るときは終電や始発の時間で、たまに運転手に話しかけられることがある。昔若い頃いろんな国を周っただとかそういう話で、ワンメーターじゃ済まない距離を走るにはちょうどいい小話だった。名前も知らないおじさんの話を聞くのは慣れている。眠気眼で打つ相槌が10回くらいのところでメーターが止まり帰路につく。二十歳を過ぎて名前も知らない人間がどんどん私の人生を通り過ぎていくようになった。ただその名前の知らない人間もまた人の子であり私くらいの年齢の時もあったはずだ。その頃その人は毎日タクシーに乗るような人だったのかな、まさか大人になって運転手になると思いはしなかっただろうな。お客の相手を済まして乗車する私もここではお客でありただの名前の知らない子供だ。こうやって誰もが誰かの人生を通り過ぎていく。環七がガス臭かったから今日貰ったレシートを全部捨てた。